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たきみさん ほうしょうじ瀧見山 法正寺

山梨県甲州市にある法正寺は、周囲3方に囲まれた山々の麓にある。建造されてから500年を超える山門をくぐると、そこには大きなソメイヨシノの樹が。その奥には、山門と同じ時を重ねてきた鐘楼が目に飛び込んでくる。さらに進めば、本堂の前に植えられているシダレザクラと松の木が来訪者をお出迎え。そこから振り返れば、鐘楼と山門の背景に、雄大な甲州市の景観が広がる。住職の新田美順(びじゅん)氏は「春、桜が満開になった時にはライトアップをするんですよ」と話す。お参りを終えると、「どうぞ庭もご覧ください」と、新田氏。本堂をぐるりと囲む外廊下から裏手に回れば、丁寧に手入れされた庭が広がり、5月にはサツキやツツジが咲き誇る見目麗しい景色と、かぐわしい花の香りを楽しめる。境内には太子堂も立ち趣ある雰囲気だ。豊かな自然や雄大な景観と相まって、その風情にうっとりため息がこぼれそうになる。

歴史

法正寺は、60年ほど前に本堂が火事になり、多くの記録が焼失したため、実際の起源は定かではない。しかし、以前の本堂を知る美順氏の父で前住職の、是宣(ぜせん)氏は「今の本堂には畳が敷いてあるけれど、火事になる前の本堂は板の間で、もっと薄暗かった。私はまだ子供だったけれど、暗闇にぼんやり浮かぶ甲冑が不気味でねえ。それも残念ながら火事で燃えてしまいましたけど、実は武田信玄のものだったそうです。どうやらこの寺は武田家の祈願所だったらしいですね」と、語る。境内の碑には「文明年中」と記されているため、これらの話をもとにすると少なくとも500年以上の歴史があると考えられる。不幸中の幸いか、鐘楼や太子堂、山門には火が移らず、当時の姿を残している。

このように長い歴史を持つ法正寺は、多くの歴史的著名人にゆかりがある。中でも有名なのは明治時代の女流作家樋口一葉だ。「一葉の小説『ゆく雲』にはこの近辺の地名が数多く記されているが、それは彼女の母方の菩提寺が法正寺だったからだそうだ。また、『雪の日』という小説には『法正寺と呼ぶ寺の離室(はなれ)を仮(かり)ずみなりけり』という文章も載っています」とは、美順氏。甲州市は、一葉にゆかりがある地を観光で巡るコースを紹介しているが、その道中には法正寺も含まれている。また、江戸時代後期の武士で、文明開化後に横浜で私塾「融貫塾(ゆうかんじゅく)」を開いた真下晩菘(ましもばんすう)は、一葉の祖父と親交があり、法正寺の寺子屋で学んでいた。山門には、彼の直筆の扁額も残されている。歴史探訪が好きな人には、たまらない場所ではないだろうか。

住職インタビュー

法正寺は昔からこの地にあり、人々の生活とともにありました。現在でも、毎朝6時に鐘を鳴らしているのですが、その鐘の音を合図に周囲の畑で仕事をしている方々は休憩に入ります。父はそのよりどころとなっている鐘を誇りに思っており、この地域に鐘の音はなくてはならないものだと実感しています。

お寺は誰にでも身近な場所であるべきだと思うのですが、現実にはお寺と人々とのつながりは少しずつ薄れていっているようにも感じます。しかし、お寺に来ることで得るものや、学びになることはたくさんあります。そういったことを知らないで過ごすのも、少しもったいないと思うのです。

私は現在、お寺のお勤めの空いた時間に、子供と関わる仕事をしています。単純に子どもが好きだからという理由もあるのですが、そうして社会と積極的に関わることでお寺をもっと身近な存在にするきっかけが生まれると思うのです。

以前、子どもたちに「ありがとう」や「ごちそうさま」など、日本語の持つ本当の意味を話したことがあるのですが、子ども伝いにそれを聞いた親御さんから「ぜひ、講座をやってほしい」と言っていただいたことがあります。私たちが伝えたいことは難しいことではなく、そういった日常に紐づいたものだと知ってもらえば、お寺ももう少し近い存在になるのではないでしょうか。

お寺に足を運んでもらう取り組みとして、毎月8日の婦人会ではお経や仏教讃歌、そして正信偈の写経をしています。ハーモニカで歌ったり、昔語りをしていただいたりしながら、参加者の得意分野でできることを実践して、バリエーションを増やしていきたいと思っています。私自身は子どもに関わる仕事をしているので、寺子屋みたいに子どもを集めて何かを教える催しものもやってみたいですね。また、11月の報恩講では、外部から人を呼び、お堂で音楽やオペラなどを披露することも。お寺としての大事な行事でありつつ、その中でお寺の別な面を垣間見てもらうきっかけになっていると思います。

ただ「話を聞きに来て」ではなく、「お寺ではこんなこともできるんだよ」ということを知ってもらい、興味を持っていただくことがなにより大事。そのようにして、お寺が人々の暮らしの中でなくてはならない存在であり続けたらいいなと思います。

葬儀・法事

是宣氏は「昔は葬儀と言えば、まずお寺へ相談に来るのが当たり前だった。そこで葬儀を行う意味はこういうものだという話ができたんだけど、今はそこを省略してしまっている。だから形だけになってしまっているんだね」と語る。現在は、僧侶が出ていくのは式中のごく短い時間だけ。「今の自分がいるのは、亡くなった方やその先人がいるからで、この先も自分を見守ってくれている。だから葬儀という場で『ありがとう』と感謝してもらいたいんです」と、美順氏。葬儀は単なるイベントではなく、それをきっかけとしてお寺と繋がってほしいと語る。仮に葬儀で伝え足りなかったことも、その後に縁が続いていれば、話をすることができるからだ。また、「意外と知られていないのですが、葬儀の相談をお寺に直接するのでも、葬儀社さんにするのでも、流れはほとんど変わらないんです。しっかりと意味合いをお話しすることができるので、お寺に早めにご連絡をいただければ嬉しく思います」と、美順氏は語る。

・法正寺本堂で葬儀や法事を行うことができる。本堂の収容人数は200人ほど。
・斎場、ご自宅へ赴くことも可能。

お墓

お墓は広大な敷地内の見晴らしのよい丘にあり、現在100基以上ある。新規も受け付け中だ。地元のほか東京などから墓参りに来る人も多いという。
【一般墓】
・永代使用冥加金:70,000円/坪
・年間管理費:9,000円

イベント情報

報恩講法要 歌語り(11月)

毎年行う11月の報恩講法要では、併せて戦没者の追悼も行なわれる。山梨県在住のアーティスト・山本晴美氏がスクリーンに映し出された映像に合わせて歌を交えつつ、戦争にまつわる物語を紡ぐ「歌語り」を披露する。他にも、オペラ歌手を招いて披露してもらったこともある。趣のある本堂を使った出し物は、開催するたび好評だという。

寺院情報

寺名(ふりがな) 瀧見山 法正寺 (たきみさん ほうしょうじ)
住職 新田 美順
郵便番号 404-0023
住所 山梨県甲州市塩山中萩原2957
電話番号 0553-33-3545
交通

JR中央本線「塩山」駅から徒歩30分、車で10分ほど

駐車場 12台
地図