【住職】吉弘 円秀
■一人一人に寄り添う姿勢を貫く
昔、街には共同体というものがあって、その仕事の一つに葬式がありました。しかし、共同体が存在しない今、寺のあり方もどんどん変わってきています。
この辺りは昔からの住民よりも、高度経済成長期のころに臨海のコンビナートで働くため田舎から出てきた人が多く、何もないところからコツコツ働き家を持ち、子供を一人前になるまで育てあげました。私は、そんな大仕事を成し遂げた人たちを尊敬しています。寺を続けてこられたのは彼らのおかげですし、一人一人と真面目に向き合うことを大事にしてきました。例えば葬儀の相談に関しては、「身内だけでやりたい」という場合や、家族すらなくお独り世帯の場合、「賑やかなのが好きだった故人のため」どんちゃん騒ぎをしたいなどさまさま。尊重すべきなのは、遺族の故人への気持ち。そのためなら旧来の形にこだわる必要はなく、どんな形があってもいいと思います。
■地元に愛される寺づくり
寺報は、市原五井布教所を開設した昭和56(1981)年11月から、ほぼ毎月発行しています。手作りだから「よくできた」と思えることの方がめずらしいです。でも、いいところだけを見せようとしても、ご門徒さんには窮屈でしょうから、もっと知ってもらうために、かっこ悪くても出し続けてきました。
副住職は、私とは別に自分なりの方向性を見出していますね。新しい世代らしい切り口で、寺に縁のない若者や子供をよく集めています。これは“明日の緑”ではなく、20年後、30年後に焦点を合わせているからこそできること。二人で意見をぶつけ合いながら、灯台の基礎を支えるように、寺が街に根付くための捨石なるつもりです。います。