■子供たちの笑い声が聞こえるお寺
私が若い頃に勤めていた音楽業界は、「仏教とはいちばん遠いところにある下世話な世界」と社長に言われました。しかし、寺に戻ってきて感じたのは、実はいちばん近い世界なのではないか、ということでした。どちらも、人と人との関係性がとても強いと思います。当時お世話になった人たちとは今でも仲が良く、さまざまなご縁をいただいています。
アーユス仏教国際協力ネットワークとのご縁で福島の子供たちをお預かりした際には、3ヵ寺が協力し、新型コロナウィルス流行前まで10年続いていました。ボーイスカウトをされている大正寺さんのアイデアでいろいろな遊びを考え、自然体験のインストラクターをなさっている門徒さんや、市の協力も得て、長く続けることができました。
また、好評なのが「ぴよぴよ寺子屋」という赤ちゃんサークルの活動です。孤独を感じがちな子育て中の保護者に、笑顔になれる場所を提供し、励ましたいというのがきっかけでした。気軽な集まりなので、大人同士の情報やモノの交換があったり、参加者のお父さんが雪かきをしてくださったり、自然と親戚のような交流が生まれています。皆さんとても楽しみにされていて、卒業ならぬ「卒ぴよ」の時には親御さんたちが泣かれるほどです。
考えてみれば昔からこのお寺には子供が集っているのです。父の代でも日曜学校をやっていて、いま60代、70代の方が子供時代に通っていたそうです。悩みがあって来た方も、「子供の笑い声を聞いたら気分が晴れる」とおっしゃっていました。
■LGBTQについての学びが気づかせてくれたこと
今、LGBTQの方々と交流していろいろ教えていただいています。「うちの寺で結婚式やお葬式ができるよ」など意思表示してもらうだけでも嬉しいとお聞きしました。今度はそういう方々の、お葬式について考えていきたいと思っています。現状は、法名に女性を表す「尼」を入れるかどうか、選んでいただくチェック欄を設けています。
LGBTQについて考えれば考えるほど、阿弥陀さまの「みんな輝く命」という教えをいただいた私たちはそれをちゃんと実践しなければ、と感じます。逆に言えば、LGBTQが入口になってくれて、そこに私たちを導いてくれているのだ、という気持ちになっています。そもそも戦国時代や江戸時代には男同士で愛し合うのも認められていたわけで、今の時代にしか通じない常識に囚われることなく、人それぞれのパーソナリティを受け入れるべき。仏教を学ぶことは、こだわりから解き放たれること……LGBTQを考えることは、それを私に気づかせてくれる良いご縁ですね。
公益財団法人 全日本仏教会では
・多様性を象徴するレインボー
・信仰のシンボルである合掌のマーク
・肌の色にとらわれない、黒い影の色
・全ての個性を肯定する姿勢をアピール
するレインボーステッカー(上図)を用いて、LGBTQの取り組みを社会に発信している。
■「お墓に行こう」ではなく「お寺に行こう」と言ってほしい
ある門徒さんが、ご家族を亡くして悲しんでいる時、本堂を貸してください、ただ昼休みの間ここに居させてくださいと言われたんです。その時はっとしました。そうか、私が何かをしなくても、もう阿弥陀さまがすべてお任せとおっしゃっているのだから、場を用意することから始めればいいんだなと。
肩肘張ったご縁づくりではなく、お寺という空間に行ってよかったね、と思っていただくのがいちばん。この先何かの折に「ちょっとお寺に行ってみるか」となれば良いし、そうでなくてもここで一度感じていただいた嬉しさや安心感は残ります。「お墓に行こう」ではなく「お寺に行こう」と言ってもらえるように、葬儀や法事だけではないお寺を目指して、いろいろなことに興味を持ってあちこち顔を出しています。